手のひらの幻獣
三崎 亜記[著]/集英社
「動物園」「図書館」に登場した、日野原柚月が遭遇する表出者の物語。
「研究所」
図書館の事件が起こってから七年、柚月は三十四歳になっていた。動物園でライオンの表出を終えた柚月は会社に戻り社長の奥さんと会った。奥さんは社長の行き先を訪ねるが社外秘として話すことはできなかった。社長の奥さんはかつてハヤカワ・トータルプランニングと熾烈な競争を行ったSKエージェンシーの社長でもあったが今は一線を退いている。社長の使いで新研究所に行き、かつて「動物園」で会った女の子ゆみちゃんが居た。少女に成長したゆみちゃんは、この新研究所で行われるかつて戦時中に行われた強力な表出者が実態化した「ナナイロ・ウツツオボエ」の制御に力を貸していた。表出者はその力から幼い頃から両親に疎んじられ悲しみを抱え、柚月もゆみちゃんも同じだった。社長から「図書館」の事件で対立した高畑君と一緒に新研究所の屋上で警護につくように指示を受ける。かつての確執からうまく警護の連携が取れない。屋上に上がったゆみちゃんが何かに見られている感じがすると言う。研究所の所長は考えすぎだと言う。新研究所の完成披露では「ナナイロ・ウツツオボエ」を来賓の前で披露するという。当日、研究所で飼っているペットを追いかけ隣地に建つ施設を見ると。そこには凍結された研究機器が稼働し社長の奥さんが陣頭指揮を取っていた。「ナナイロ・ウツツオボエ」との融合で意識を失ったゆみちゃんを解放するが、戒めを解かれた「ナナイロ・ウツツオボエ」に嬉々として立ち向かう社長がいた。力を持て余す社長が先代社長が関わり気にしたていた「ナナイロ・ウツツオボエ」の解放を画策していたが、それは社長の内部の限界まで追いやっていた。
「遊園地」
研究所の事件から五年。柚月は力を持て余す少年たくやくんを連れて地方の動物園で表出でしか展示できない動物を表出していた。新研究所での研究は縮小され、政府は子供を優遇するために「次世代遊園地」を各地に作っていた。子供は原則無料。「子供の日」とされる日は大人は入場禁止になる。動物園での業務を終えての帰り、次世代遊園地から少女の助けを求める声を聞くたくやくん。これまでの事件から表出者の能力は政府から厳格に管理されているがたくやくんは気にせず、閉館した次世代遊園地に表出体を飛ばすが表出者向けのバリアで守られていた。一度元に戻って遊園地に侵入し少女を探すが見つけることができなかった。現在、柚月が所属するSKエージェンシーの社長代行に報告する。社長の奥さんは実は社長の姉で社長と姉は先代社長の願いからこれまで裏で画策していた。動物園での業務の最中、次世代遊園地で立てこもり事件が発生したとニュースで知った。事件を知れば止めることができないたくやくんと遊園地に潜入する。今ではSKエージェンシーから新研究所に出向しているゆみちゃんも応援に駆けつけることに。遊園地の中には立てこもり犯人はおらず子供達が際限なく遊ばされていた。実態化された少女にそらと名付け、内部に潜入する、柚月はたくやくんと離れたため遊園地に操られそうになるがゆみちゃんに助けられる。協力し子供達を遊園地の外に連れ出し解放し、遊園地のコントロール部に向かう。そこでは軍事目的をも見据えた政府による表出者の青田刈りをしていた。そして地下にはこれまでの研究で作り出した存在がいた。たくやくんの力でも対抗が難しいところに「ナナイロ・ウツツオボエ」が出現する。