羊と鋼の森
宮下 奈都[著]/文藝春秋
2016年 第13回本屋大賞受賞作
その時教室に残っていたからと言う理由だけで僕は担任から来客を体育館に案内するよう頼まれた。調律師だが僕は空調の何かだと思った。体育館のピアノの調整をした。ピアノは森の木の匂いがした。ピアノの音が少しずつ変わっていくのをそばで見ていた。僕は山の羊を思い出した。いい草を食べて育ったいい羊を贅沢に使ったフェルトじゃないといいハンマーは作れないと言った。音の景色がはっきりと浮かび、その景色は最初に弾いたときに見えた景色より格段に鮮やかになった。調律師は板鳥と名乗った。そして楽器店を訪ね調律師になることを決めた。本州の調律師養成の専門学校に入り故郷の楽器店に戻ってきた。入社して半年は業務研修になる。電話の対応、店のピアノで調律の練習をした。焦ってはいけないコツコツです。この仕事に正しいかどうかの基準はありません。ホームランを狙ってはダメです。先輩のあとをついて家庭のピアノの調律に行き双子の姉妹の家を訪ねた。先輩は楽しみなのだと言う。先輩は妹の弾む色彩にあふれた音を楽しみと言ったのだと思うが、僕は姉のピアノの音に思わず椅子から腰を浮かせ耳から首筋にかけて鳥肌が立った。板鳥さんは目指す音について小説家の言葉を借りて「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを堪えている文体、夢のように美しいが現実のようにしたたかな文体」と言った。もう一人の先輩はお客にレベルによって調律の仕方を変えると言う。先輩がプロポーズをすると言う日、姉妹が訪ねてきてピアノの調律に向かったが調律ができなくなり先輩にSOSを出す羽目になった。見習いが過ぎお客様を回してもらうようになったが調律師を変えてくれと言われた。先輩調律師はラーメン屋をたとえに話をするが分かりにくい。初めての客にどんな調律が望まれているかわからない、初めからインパクトを味あわせ最後でも飽きない調律を目指すには?。双子の一人が弾けなくなったと言う。姉の方ではないことを祈る。それぞれに乗り越え片方はプロのピアニストへ片方はもう片方を支える調律師を目指すと言う。先輩の披露宴で双子が演奏することに、僕がそのレストランのピアノの調律を任された。